院長からのご挨拶

宮本町中央診療所



「週刊新潮」通巻2202号 1999年5月20日(新潮社)

やっぱり中高校生に「性感染症」蔓延

 

「婚前交渉?何、それ?」という時代だ。性の目覚めは早くなるばかりで「一億総性熟」時代を謳歌する平成ニッポン。そんな折も折、中学生や高校生の間に性感染症が増加している。

 
 

股間を押さえて何やら深刻そうに病院に駆け込む学生服。一昔前なら、「ただのインキンだってさ」などと笑い飛ばせたのだが、最近の事情はチト違うらしい。
「性感染症にかかった中高生の数が、ここ数年ジワジワ増えてきているんです。」と話すのは、性感染症に詳しい『宮本町中央診療所』の尾上泰彦所長だ。

性感染症とはセックスによって感染する病気の総称である。真っ先に思い浮かぶのは、梅毒や淋病、エイズなどだが、そんな怖い性病はともかく、「性感染症で厄介なのは、症状が出にくいヘルペスやクラミジアなどです。これらの場合、症状があっても尿道に違和感があるとかカユミがあるとか、その程度。来院して検査を受け、初めてわかるケースがほとんどなんですよ。菌も尿道の粘膜からしか検出できないんですからね。」

症状がないからと油断するべからず。放置すると、男性なら精管が、女性なら卵菅が炎症で塞がって重度の不妊症や子宮外妊娠の原因にもなりかねないという。しかし、「来院する中高生は、学生服を着たままカップルで来たり、先に来た男の子が病名を知って相手の女の子を連れてくるという具合。親には内緒、というわけなのでしょうが、アッケラカンとしたもんです。」(尾上所長)

風俗店がサービスを競い、援助交際がブームになる時代だ。低年齢者層に性感染症が蔓延する素地は充分にある。風俗紙記者もいう。
「エンコー(援助交際)する女の子の年齢は若くなる一方。最近では、妊娠する可能性もない初潮前の年齢でエンコーしまくり、月経が始まると同時にエンコー卒業という女の子まで出てきているんです。」


対策は出前性教育

こうした状況の中、ついにというべきか、日本で初めて中高生に対して『性の出前教育』を行なう自治体が現れた。岡山市がそれである。
「ここ数年、中高生の性感染症が増えているため、『出前性講座』はその予防として去年の7月から始めました。」と話すのは岡山市保健所の市場尚文医療専門監である。

その背景には、市内病院で複数の高校生の性感染症が確認されたことがあった。
「泌尿器科や産婦人科など4人の医師と5人の性教育専門家の方を岡山市内の中学・高校に派遣して、17回の出前講座を開いたんです。体育館に集まった生徒たちは真剣な顔でスライドを見ていました。」
講座の後で回収されたアンケートは約1500通。
「アンケートの対象は中2以上だったんですが、そのうち性交経験者は300人弱。初体験の年齢は14歳から16歳が全体の約8割を占めましたが、11歳までに経験したという生徒も複数いました。2人以上と性交した生徒も全体の6割に達しています。」と市場専門監は続ける。
「気になるのは避妊や性病予防についての無知ぶりです。コンドームを面倒臭がって、膣外射精で済ませてしまう子供が4割もいましたからね。」

この出前講座は評判になり、同じ悩みを持つ他県からも注目されているというが…。先の尾上所長も警告する。「これだけセックスがオープンになった今は”一億総性感染症時代”と言っても過言ではない。」
自覚症状が乏しいこともあって、表に出てくる感染疾患者の数は氷山の一角である。「特に中高生たちに”口は災いのもと”と言って教えるのは、性感染症にはオーラルセックスでも感染するからなんです。それを防ぐ方法としては…やっぱり最初から最後までコンドームを使用すること。これにつきます。」