院長からのご挨拶

宮本町中央診療所



「BIG tomorrow」第246号 2000年12月1日(青春出版社)

あなたのカラダの悩みに専門医がお答えします
第11回 性感染症(STD)

本番なしでも感染の危険はある。症状が出ないまま広がって、入院が必要になることも…

 

「ボクのアソコは痛くもかゆくもない。だから病気じゃない。」なんてあまい!気づかぬうちに進行する性感染症。あなたもすでに…

 
 


性感染症は、風俗関係の女性から感染するものと思われがち。ですが、最近は一般の男女、特に若い女性の間に増えているそう。泌尿器科医の尾上泰彦先生(川崎市・宮本町中央診療所)に詳しくうかがいました。


普通の男女の間でブーム

記者「最近、性感染症が若い女性の間ではやっていると聞いたんですが…」

先生「実際に診察にくる女性の患者さんは増えています。ということは、若い男性にも増えているということです。」

記者「よく新聞で取り上げられているクラミジアも性感染症ですよね。」

先生「そうです。現在は、クラミジア感染症が性感染症の中で一番多く、20〜30代の若者の間ではトレンドといってもいいくらいです。だから、雑誌などでも取り上げられるようになったのでしょう。」

記者「そもそもクラミジアって何ですか?」

先生「クラミジア・トラコマティスという病原微生物による性感染症です。30年くらい前に明らかになった病気です。」

記者「で、クラミジアになると、どんな症状がでるんですか?」

先生「それが、自覚症状がほとんどないケースが多いんですよ。はっきりとした症状が出るのは、感染者のうち半分以下です。」

記者「え、症状が出ないの?」

先生「自覚症状に乏しい、ということです。症状がはっきりと出る人は、男性では尿道から白濁した分泌液が出たり、軽い排尿痛があります。しかしほとんどの人が症状がなく、あっても尿道に軽いかゆみや不快感がある程度です。女性ではなんと80%の人は自覚症状がないんです。」


セックス、フェラチオだけじゃない。キスも危ない!

記者「気づかないと、どうなるんですか?」

先生「病気とは知らずにセックスして相手にうつしてしまいます。”性あるところ、感染症あり”といわれるように、普通につき合ってセックスしているだけでも、感染してしまうことがあるんです。」

記者「へ〜。それは怖いですね。ということは、もしかしてボクも感染しているかもしれないってこと?どんな人がどう感染するんですか?」

先生「セックスをしていれば、誰でも可能性はありますが、男性なら、風俗店に頻繁に行く人、不特定多数のパートナーと性行為をしている人が感染しやすいです。見落としがちなのが、ピンクサロンやファッションマッサージ、ヘルスなどの、オーラルセックス(口でのサービス)のみの場合。
腟性交ではないから感染しないと思われますが、実際には、そういった仕事の女性はのどに菌やウィルスを持っていることが多く、立派な感染経路といえます。」

記者「ドキッ!ボクも気をつけなきゃ。本番なしでも、口でやってもらうだけで感染しちゃうんですね。」

先生「そうです。性器と肛門でも感染しますよ。」

記者「キスはどうですか?」

先生「口と口?うつる可能性はあります。男性が女性の性器をなめた場合でもうつります。”口はわざわいのもと”と私は言っているんですよ。ただし、エイズはキスではうつりません。エイズウィルスが含まれるのは血液と精液と腟分泌物のみで、唾液にはほとんど含まれていませんから。お互いに口の中に傷がある場合以外は基本的にはうつりません。」


一度かかると再発も多い。治すより予防する努力を

記者「でもね、もし感染していたとしても、行きづらいですよ、病院。そのまま自然治癒したらいいなあ、なんて…」

先生「先ほどもお話したように、自覚症状の乏しい病気です。自然治癒も皆無ではないですが、それ以上に、自覚症状のないまま広がるケースが多い。これはクラミジア感染症に限ったことではありません。たとえば淋菌でも同様です。」

記者「でも、自覚症状がないなら、痛くもかゆくもないし、症状が出ても、かゆい程度でしょ?なら、そのまま一生おつき合いしてもいいかなあ、なんて…」

先生「いえ、菌の狙いは副睾丸です。感染したまま放っておけば、前立腺や精管を通って副睾丸まで達します。その結果、副睾丸が腫れ、高熱が出て入院ということもあります。その段階までいくと、精子の通過障害が生じ、男性不妊という可能性もあります。女性でも症状が進むと卵管炎や子宮内膜炎を引き起こし、不妊症や子宮外妊娠の原因となることがあります。」

記者「子どもができない!?」

先生「ええ、ですから、不妊症という悲惨な結果にならないように、尿道炎の時点で治さないといけません。」

記者「病院へ行けばすぐに治りますか?」

先生「ええ。内服薬(抗生物質)を飲めば2〜3週間くらいで治ります。」

記者「……性病科ですか?」

先生「男性なら泌尿器科、女性は婦人科で、検査も治療も受けられます。風俗店によく行く人は3〜6か月ごとに検査したほうが安心です。ただし一部の性感染症は、一度かかると完治が難しく、再発するケースも多い。だから、予防策に力を入れてほしいです。」

記者「というと?」

先生「基本的にはコンドームをつけること。セックスの最初から最後までつけなければ意味がありません。そして、特定の女性以外とセックスしないことです。」

●もっとも多い6つの性病。症状と治療法は?

「現在、4大性感染症と呼ばれているのはクラミジア感染症、淋病、性器ヘルペス、尖形コンジローマ。この順番で多いです。5番目に梅毒、6番目に毛じらみと続きます。(尾上先生)」
いずれも感染経路は性行為ですが、その症状や治療法は、病気によって違います。
病 名 潜伏期間 症 状 治療法
クラミジア感染症 1〜3週間 軽い排尿痛、尿道の違和感、かゆみ、白濁・透明の粘液が出る。症状が軽く無症状のケースも。放っておくと前立腺炎、副睾丸炎、結膜炎、最悪は男性不妊症になる可能性もある。 初尿を採取しクラミジアの遺伝子があるかどうかで診断する。尿道に綿棒を入れ分泌物を採取する場合も。治療は内服薬(抗生物質)を飲む。2週間程度で完治する。その間はセックス禁止。
淋 病 2〜10日 尿道口が赤く腫れあがり、尿道口より黄色いウミが出てきて、激しい排尿痛がある。さらに前立腺炎、副睾丸炎に進む場合もある。オーラルセックスにより、咽頭炎、肛門性交による直腸炎も。 淋菌により感染。抗生物質と注射によって、1週間くらいで症状が消えるが、完全に治ってないと慢性化することも。
いつまで治療するかは医師の診断をあおぐ。勝手に市販薬を飲まないこと。
性器ヘルペス 2〜10日 性器に複数の水疱ができ、まもなくつぶれ、びらんや潰瘍ができる。かゆみや痛みがある。足のつけ根のリンパ腺が腫れ痛くなり、発熱することも。初めてだと症状は強く、再発の場合は軽い。 原因は単純ヘルペスウィルスによる感染。急激に水疱ができる急性型は抗ウィルス剤などで1〜2週間程度で治る。症状が軽いものは軟膏などで1週間程度で治る。再発することも多い。
尖形コンジローマ 1〜6か月 ペニス全体に鶏のトサカのような大きなイボができ、じょじょに大きくなり、数が増える。痛みはまったくなく、放っておくとペニス全体がイボでうめつくされる。まさにペニスのインベーダー。 ヒト・パピローマウィルスによる感染。イボの組織を採取して、ウィルスをチェックする。レーザー、電気メスなど外科的方法で取り除く方法と軟膏を塗る治療法などがある。
梅 毒 3週間 感染して3週間後くらいに、リンパ腺が腫れて性器にしこりができる。あまり痛くなくしこりはやがて消えるが、放置すると菌が体内にまわり、さまざまな内臓疾患を誘発する。 おもにセックス、キスから感染。昭和初期は死に至る病気として恐れられたが、現在は初期であれば抗生物質の注射を約2週間、内服を1か月程度で治る。その後、定期的に血液検査する。
毛ジラミ なし 症状は陰毛、性器のかゆみ。放っておくとシラミが増殖し、ますますかゆくなり、掻きすぎて皮膚炎を起こすことも。白い下着にするとしらみの糞である茶色い粉がつくのでわかる。 泌尿器科または皮膚科で、粉薬を施すことでしらみは消える。ただし、いったん消えても卵が生き残っていると再発するので根気よく治療。コンドームをつけても陰毛の接触で感染。